平成30年7月、約40年ぶりに相続法の改正がありました。
本コラムでも、改正点について少しずつ解説していきたいと思います。
配偶者居住権の新設
配偶者居住権の趣旨
遺産の大部分を不動産が占める場合に、仮に配偶者が不動産を相続すると、それだけで法定相続分に達してしまうことがあり、生活費となる預貯金を取得できないことがあります。そのような配偶者の居住を保護するための制度として、配偶者居住権が新設されました。
イメージとしては、不動産について、①条件付の所有権と②居住権に分け、それぞれ評価した上で遺産分割を行うというものです。
配偶者居住権の取得方法
配偶者居住権を取得するには、以下の3つの方法があります。
- 遺産分割(民法1028条1項1号)
- 遺言で配偶者居住権を遺贈の目的とする(民法1028条1項2号)
- 家庭裁判所の審判(民法1029条)
ただし、「家庭裁判所の審判」で配偶者居住権が取得できるのは、
共同相続人間に配偶者相続人が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき
または
配偶者相続人が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき
に限られます。
配偶者居住権が取得できない場合
被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合は、その配偶者以外の者への負担を考慮し、配偶者居住権を取得することができないとされています(民法1028条1項ただし書)
配偶者居住権の内容
増改築、第三者への使用収益
配偶者相続人は居住建物の所有者の承諾を得なければ、増改築や第三者に使用・収益させることはできません(民法1032条3項)。
配偶者相続人が承諾なく増改築等を行った場合、居住建物の所有者は、相当の期間を定めて是正を勧告し、その期間内に是正されないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者相続人に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができます(民法1032条4項)。
居住建物の修繕
配偶者相続人は、居住建物の使用・収益に必要な修繕をすることができます(民法1033条1項)。
居住建物の修繕が必要な場合において、配偶者相続人が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができます(民法1033条2項)
費用負担
配偶者相続人は、居住建物の通常の必要費を負担します(民法1034条)。
配偶者居住権の登記
居住建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者相続人に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います(民法1031条1項)。
この登記を備えれば、第三者に対しても配偶者居住権を対抗することができます。
配偶者居住権の消滅
- 存続期間の満了
- 配偶者相続人の死亡
- 用法遵守義務違反
- 無断増改築等
- 建物の滅失
配偶者居住権の評価方法
遺産分割に際して配偶者居住権をいくらと評価するかについては、他に取得できる財産の多寡に関わるため重要といえます。
法務省では、簡易的な評価方式の一例を紹介しています。
配偶者短期居住権の新設
概要
上記の配偶者居住権と区別されたものとして、「配偶者短期居住権」というものも新設されました。
これは、相続開始時に配偶者が遺産の建物に無償で居住していた場合に、一定期間だけ生存配偶者が無償で遺産の建物を使用・収益できる権利です。
判例(最判平成8年12月17日)では、「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される」としたものがあり、一定の条件のもとで配偶者相続人の居住権が保護される場合がありました。
もっとも、例えば、被相続人が相続開始後は配偶者相続人に居住建物を無償で使用させない意思を示していた場合など、上記判例をもってしても居住権が保護されない場合があったため、一定期間の配偶者相続人の居住権が認められるに至ったといえます。
一定期間とは
居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合
遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日
上記以外の場合
居住建物取得者が配偶者居住権の消滅の申入れをした日から6か月を経過する日
配偶者短期居住権が認められない場合
- 配偶者相続人が居住建物に配偶者居住権を取得したとき
- 配偶者相続人に相続欠格事由がある場合
- 配偶者相続人が廃除された場合
配偶者居住権と配偶者短期居住権の違い
権利の内容
配偶者居住権では居住建物の使用収益が認められるのに対して、配偶者短期居住権で認められるのは使用のみです。
期間
配偶者居住権は、原則として、配偶者が亡くなるまで無償での居住が認められるのに対して、配偶者短期居住権は、上記のとおり一定期間に限られます。
第三者への対抗力
配偶者居住権は登記することで第三者に対抗することができますが、配偶者短期居住権には第三者対抗力が認められていません。
最後に
以上のとおり、配偶者居住権、配偶者短期居住権について解説しました。
ほとんどが民法の条文として規定されたものですが、実際の遺産分割に際しては、配偶者居住権をいくらと評価するのかという問題など、専門的な知識が必要となる領域といえます。