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2021.03.16

パワハラ防止法とは?企業が押さえておくべき法改正のポイントについて

皆さんは、パワハラ防止法という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」という法律があるのですが、令和元年の改正によって、パワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられたことで、当該部分について、パワハラ防止法と呼ばれるようになりました。

この背景には、厚生労働省が実施した調査において職場でのパワーハラスメントの実態が明らかとなり、パワーハラスメントからの労働者保護の要請が高まったことがあります。

本コラムでは、パワハラ防止法の内容、罰則の有無、そもそもパワハラとは、といったテーマについて、企業が知っておくべき点を解説します。

パワハラ防止法の概要

パワハラ防止法(以下「法」といいます。)では、事業主に対して、次のような措置等が義務付けられています。

労働者が相談できる窓口を設置するなど、体制を整備すること

「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(法第30条の2第1項)。

労働者がパワハラの相談をしたことなどを理由に、当該労働者に不利益な取扱いをしないこと

「事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」(法第30条の2第2項)

労働者によるパワハラへの関心及び理解が深まるよう努力すること

「事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない」(法第30条の3第2項)

事業主自身がパワハラへの関心及び理解を深めるよう努力すること

「事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない」(30条の3第3項)

パワハラ防止法の施行時期

大企業は令和2年6月1日から、中小企業は令和4年4月1日から施行されます。

大企業と中小企業との区別ですが、資本金額や労働者数の両方が下記に該当しない限り、大企業の扱いになります。

資本金の額または出資の総額

  • 小売業:5,000万円以下
  • サービス業:5,000万円以下
  • 卸売業:1億円以下
  • その他:3億円以下

常時使用する労働者数

  • 小売業:50人以下
  • サービス業:100人以下
  • 卸売業:100人以下
  • その他:300人以下

パワハラ防止法に違反した場合

厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができます(法第33条第1項)。

また、厚生労働大臣は、法第30条の2第1項、同第2項などの規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができます(法第33条第2項)。

罰則はありませんが、上記のとおり勧告に従わない場合には、公表されることがあるため、企業の社会的信用を失わないためにも注意が必要です。

また、事業主は、厚生労働大臣から、第30条の3第1項及び第2項の規定の施行に関し必要な事項について報告を求められることがあり(法第36条)、これに対して、報告をせず、又は虚偽の報告をすると、20万円以下の罰金に処せられる可能性があります(法第41条)

さらに、公表の有無等にかかわらず、民事上の責任が発生する可能性はあり、パワハラが起こらないよう環境を整備することは必須です。この民事上の責任については、後述します。

パワハラとは?

では、具体的にどのような行為がパワハラに該当するのでしょうか。

パワハラの定義

パワハラ防止法では、パワハラに関して、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と表現されており、これは一つの定義といえます。

代表的な類型

  • 身体的な攻撃(暴行、傷害)
  • 精神的な攻撃(侮辱、脅迫)
  • 人間関係からの切り離し(無視、隔離)
  • 過大な要求(遂行不可能なことの強制)
  • 過小な要求(嫌がらせのために仕事を与えない)
  • 個の侵害(性的指向や病歴などを暴露する)

各概念の範囲

「優越的な関係を背景とした言動」とは

必ずしも上司から部下に対する言動に限られないでしょう。

例えば、特定の社員の協力がなければ業務を遂行できない場合に、当該社員がその関係を前提に行う言動は、上記の「優越的な関係を背景とした言動」に該当すると考えられます。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは

例えば、業務上の失態について再び同様のミスを犯さぬよう指導・教育する場合は、業務上必要といえますが、それが当該社員の人格攻撃にまで至り当該社員を精神的に追い込むような場合は、相当な範囲のものとはいえないでしょう。

問題となったパワハラの発言等のみならず、そこに至るまでの過程、例えば、部下が上司に対して反抗的な態度をとり煽ったことに対してなされた上司の発言が問題となった場合、その発言のみを切り取るのではなく、一連の事実経過からして当該発言の必要性、相当性が判断されることになります。

「職場」とは

通常就業している場所以外でも、出張先や通勤中、顧客との打合せの場なども含まれるでしょう。

「労働者」とは

正社員だけでなく、契約社員などの非正規労働者も該当します。

パワハラに対する会社の民事上の責任

労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定め、

労働安全衛生法第3条第1項は、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」と規定しています。

このように、会社は法律上、労働者に対する安全配慮義務、職場環境配慮義務を負っています。

したがって、会社がこれらの義務を怠ったことで労働者に損害を生じさせた場合には、会社が損害賠償義務を負うことがあります。

また、パワハラが「事業の執行について」行われた場合には、会社は民法第715条に基づく使用者責任を負うことがあります。

このようにパワハラを行なった個人だけでなく、会社の責任が問われる場合もありますので注意が必要です。

まとめ

パワハラ防止法の概要について解説しました。

罰則など必ずしも厳しい制裁が規定されているわけではないですが、パワハラが横行する状況を放置した結果、会社としての責任を追及される可能性はありますので、職場環境を整えるという意味においてパワハラ防止法を参考にした環境整備は重要といえます。

また、実際にパワハラが起こってしまった場合の対応も重要です。

パワハラを受けた労働者へのフォローだけでなく、パワハラを行なった者に対する処分も検討すべきところですが、その処分に対して異論が出ることもあります。

パワハラに関する問題で悩まれた際には、お気軽にご相談ください。

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