平成30年7月、約40年ぶりに相続法の改正がありました。
本コラムでも、改正点について少しずつ解説していきたいと思います。
特別受益の持戻し
「特別受益」とは、共同相続人が被相続人から受けた遺贈又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として受けた贈与のことを意味します。
例えば、自宅を買うときに援助してもらった、結婚するときに支度金をもらったといったような場合です。
「特別受益の持戻し」とは、この特別受益を遺産の前渡しと評価し、具体的相続分の計算時に、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とすることを意味します。
これは、相続人間の公平を図るためのものです。
特別受益の持戻し免除の意思表示
被相続人が上記のような計算をしない(=特別受益を持ち戻さない)意思表示をしていた場合には、「特別受益の持戻し免除の意思表示」があったとして、上記のような計算を行わないことになります。
特別受益の持戻し免除の意思表示の推定
今回の相続法改正では、一定の要件を満たした配偶者相続人については、被相続人に上記の意思表示があったことを推定することになりました。
従来は、被相続人の意思表示が必要であったところ、「一定の要件」を満たした配偶者相続人の場合、意思表示が推定されるため、配偶者相続人が一定の限度で保護される結果になります。
この「一定の要件」は、下記のとおりです。
- 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し
- その居住の用に供する建物又はその敷地について、遺贈又は贈与をしたとき
具体例
簡易的な事例ですが、持戻しを行う場合と行わない場合の計算方法は、以下のとおりです。
例)
被相続人:父
相続人:母、子2人
遺産:預貯金4000万
※預貯金のほかに居住用不動産4000万円があったが、父が母に生前贈与
持戻しを行う場合
みなし相続財産:預貯金4000万円+不動産4000万円=8000万円
母の取得額:(8000万円×1/2)−4000万円=0円
子の取得額:8000万円×1/4=2000万円
子の取得額:8000万円×1/4=2000万円
持戻しを行わない場合
相続財産:預貯金4000万円
母の取得額:4000万円×1/2=2000万円(+生前贈与の不動産)
子の取得額:4000万円×1/4=1000万円
子の取得額:4000万円×1/4=1000万円
反証された場合
もっとも、これは「推定」であるため、反証された場合には覆ることになり、その場合は特別受益を持ち戻して計算することになりますので注意が必要です。
まとめ
特別受益については、そもそも特別受益に該当するか否か、上記の持戻し免除の意思表示の推定が適用されるか否か、適用されない場合に持戻しを免除するか否か、持戻しを免除しない場合の計算方法など、争点が多くなる分野です。
調停や審判など家庭裁判所の手続きでは、自らの主張を論理的に展開する必要がありますので、専門家のサポートが必要な場合には、お気軽にご相談ください。