個人の債務整理、法人の債務整理については、それぞれ別のコラム記事を書かせていただきましたが、今回は、個人の債務整理の中でも最もご相談の多い自己破産について、具体的な手続きの流れや費用について、解説したいと思います。
自己破産の流れ
弁護士との契約
ご相談の結果、債務整理の方法として自己破産を選択された場合、自己破産の申立てについて、弁護士と委任契約を締結していただきます。
受任通知の発送
お急ぎであれば、ご契約の翌日には債権者に対して受任通知を発送いたします。これによって、ご依頼者の方に債権者から直接督促の連絡が来ることは止まります。
契約後の注意点
- 一部の債権者に返済することは偏ぱ弁済といって禁止されていますので、特に親族や友人などに返済しないよう、注意が必要です。
- 税金等は免責されませんので、計画的に返済していただく必要があります。
- ローンカード、クレジットカード等は、債権者から返還を求められる場合がありますので、契約時にお預かりします。
- 預金口座をお持ちの銀行等から借入れを行っている場合、受任通知を送付すると預金と借入金が相殺されてしまいますので、受任通知送付前に預金の払戻しを行っていただくほか、給与の振込先に指定している場合には変更をお願いしています。
必要書類の準備
破産の申立てに際しては、決められた必要書類が多数あるため、リストの形でご案内しますので、決められた期日までにご準備いただくことになります。
ご依頼者の方の状況によっても異なるのですが、概ね以下のような資料が必要となります。
- 住民票(省略のない3か月以内のもの。ただし、マイナンバーの記載のないもの)
- 2年分の預貯金通帳
- 保険関係の証書
- 車検証
- 2か月分の給与明細
- 源泉徴収票
- 課税証明書(所得控除額欄のあるもの)
- 賃貸借契約書(借家に住んでいる場合)
- ライフラインの領収書
- 退職金見込計算書(勤務年数5年以上の場合)
申立て
ご依頼者の方のご住所を管轄する地方裁判所に破産の申立てを行います。
申立後
後述する管財事件か同時廃止事件かによって流れが異なってきます。
破産手続きには、大きく管財事件と同時廃止事件という2種類があり、破産管財人が関与するか否かという違いがあります。
管財事件
破産手続開始決定とともに破産管財人が選任され、破産管財人が財産の調査・管理・処分、債権者への配当等を行うことになります。
そのため、管財事件に関しては、申立ての際、破産管財人の費用(最低20万円程度)を予納する必要があります。
破産手続開始決定後、基本的に、裁判所に選任された破産管財人との面談があり、代理人弁護士と一緒に破産管財人の事務所に赴くことが多いです。
その後、通常は数か月後に開催される裁判所での債権者集会を経て、配当があれば配当を行うための手続きに移ります。
配当がなければ、破産手続きは異時廃止として終結します。
なお、債権者集会では引き続いて免責審尋期日が行われ、破産管財人から免責に関する意見が述べられ、その後、裁判所が免責に関する決定を出すという流れになります。
同時廃止事件
裁判所によって異なりますが、裁判所からの追完資料の指示等があれば、それらを提出し、破産管財人が選任されないため、破産手続開始とともに手続を廃止します。
その後、指定された免責審尋期日に出廷し、裁判所が免責に関する決定を出すという流れになります。
裁判所によっても異なるのですが、一度も出廷することなく手続きを終結させる場合もあります。
管財事件と同時廃止事件の振り分け基準
横浜地方裁判所では、以下のいずれかに該当する場合は管財事件として進め、いずれにも該当しない場合は同時廃止事件として進めることになっています。
清算型
保有している個々の資産が20万円以上(現金の場合は33万円)の場合
法人併存型
申立人が法人の代表者で、法人とともに申立てをする場合
資産調査型
個人事業主であった場合や負債総額が多額であるなど、破産管財人による調査が必要と判断される場合
偏ぱ弁済型
偏ぱ弁済(特定の債権者のみに返済する行為)があり、否認権行使により財産を取り戻す必要がある場合
不当利得型
いわゆる過払金があり、債権者から金銭を取り戻す必要がある場合
免責調査型
免責不許可事由の存在が明らかであり、破産管財人による調査が必要となる場合
清算型の詳細
清算型に該当するか否かの判別が難しいことがあると思いますので、この点をもう少し説明します。
あくまでも個々の資産であり、合計額ではない
例えば、預金が10万円、生命保険の解約返戻金が15万円といった場合、合計では20万円以上になりますが、個々でみれば20万円以上ではないので、基本的にはこれだけで管財事件にはなりません。
「基本的には」というのは、個々の資産が積み重なって多額になった場合には、管財事件で進める場合もあるということです。
退職金債権の取扱い
退職金債権は、破産手続開始時点において退職した場合の支給見込額の8分の1が20万円以上の場合には、管財事件となります。もっとも、退職が間近の場合には、4分の1が基準となります。
小括
ご相談を受けた段階で、ある程度、管財事件か同時廃止事件かという見通しが立ちますので、管財事件の場合には、別途予納金20万円の準備をお願いする形となります。
自己破産の費用
自己破産するために必要な費用としては、裁判所に支払う予納金等と、弁護士費用が挙げられます。
裁判所に支払う予納金等
予納金等については、上述の管財事件か同時廃止事件かによって異なってきます。いずれも横浜地方裁判所の場合ですが、概ね以下のとおりです。
管財事件
- 官報広告費:1万5499円
- 収入印紙:1500円
- 引継予納金:最低20万円
同時廃止事件
- 官報広告費:1万1859円
- 収入印紙:1500円
弁護士費用
弁護士によって報酬体系が異なるかと思いますが、弊所では個人の自己破産申立てについては33万円(税込)、法人の破産申立てについては規模に応じて55万円(税込)~を申し受けております。
自由財産拡張の申立て
破産についてお調べになった方からは、自由財産拡張の申立てについてご質問を受けることも多いため、簡単に説明いたします。
自己破産をした場合,財産は処分されるのが原則ですが,個人の破産の場合は,「自由財産」に該当する財産は処分しなくてもよいものとされています。
つまり、この「自由財産」に該当する財産は、破産しても手元に残しておけるものということになります。
本来的自由財産
新得財産
破産手続開始後に取得した財産については、破産しても換価処分の対象にはなりません。
差押禁止財産
例えば、生活必需品などの差押禁止動産や、年金受け取る権利や給与債権の一部などの差押禁止債権などがこれに該当します。
99万円以下の現金
自由財産として拡張された財産
本来的自由財産以外にも、裁判所の決定で自由財産とされたものは換価処分の対象にはなりません。以下の財産は、基本的には自由財産拡張が認められます。
- 20万円以下の預貯金
- 20万円以下の保険契約解約返戻金
- 処分見込価格が20万円以下の自動車
- 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下である退職金債権
まとめ
自己破産の流れや費用、自由財産の拡張について解説しました。
具体的なご相談をいただければ、今後どのような手続きを経るのか、より詳細に見通しを立てることが可能ですので、「自己破産したらどうなるか」ということをお知りになりたい方は、お気軽にお問い合わせください。