不動産は、自宅や事業を行う事務所、店舗といったように多くの方が生活の基礎とするものです。
他方で、不動産にはトラブルも多く、賃貸の場合には、賃料や原状回復といった点で紛争が生じることが多いですし、所有している場合には、契約不適合といった売買時の紛争から隣地との境界に関するトラブルなど、多種多様といえます。そこで、今後、何回かにわけて不動産トラブルについて解説したいと思います。
今回は、不動産に関するご相談で最も多い、賃料(家賃)を滞納された場合の明渡しの請求について解説します。
明渡しの方法
賃料の滞納があるために賃貸借契約を解除し、明渡しを求める場合、通常は、手紙を送付するなどして、任意の明渡しを求めるでしょう。仮に長期間にわたる多額の賃料の滞納があったとしても、勝手に荷物を搬出するといった実力行使は認められていません。
連絡を無視されるなど、任意に明け渡してもらうことが期待できないときには、訴訟を起こし、判決を取得し、強制執行の手続きにより明渡しを得なければなりません。自分で交渉してみても、最終的に開き直って居座られてしまうと、上記のような法的な対応が必要になりますので、初めから訴訟等を見据えた対応(催告や解除通知の証拠化など)が必要です。
立退料の必要性
長期間の賃料滞納がある場合など賃借人の債務不履行があり、それをもって契約解除を基礎付けられる場合には、立退料は必要ありません。賃借人から立退料を要求されても、毅然とした対応を取れるということになります。
もっとも、その後の訴訟、強制執行にかかる時間、費用といったコストを考慮し、多少の立退料で明渡しが得られるのであれば、その方が合理的である場合もあります。明渡しという最終目標に向けた合理的な選択をしていくことが、損失を最小限に抑えることにつながります。
弁護士に依頼する必要があるか
賃料の滞納がある場合、早く明渡しを得ないと賃料の取れない期間が長くなります。もちろん明渡しまでの賃料は請求できますが、引っ越した先でも家賃を負担していることが想定される者から未払賃料を回収するのは容易ではありません。したがって、早期な明渡しが必須といえます。
また、訴訟を提起したとしても、訴状の提出から第1回期日、そして判決まで、数か月以上かかることもあることからも、早めの決断が必要といえます。
賃料滞納による明渡しというと、比較的簡単な印象をもたれるかもしれませんが、実際に訴訟を起こすには、訴状を作成し、証拠書類を整理し、また明渡しを求める部分は面積も含めて厳密に特定する必要があるなど、意外に手間がかかるものです。
これらの点をすべて弁護士に任せることができるという意味では、弁護士に依頼するメリットも大きいのではないでしょうか。
明渡しまでの流れ
賃借人に対する通知
期限までに賃料の支払いを求める催告及び支払いがなかった場合に解除の意思表示を行う内容の通知書を送付します。
この通知は内容証明郵便で行うと、後に証拠として使うことができます。
もっとも、内容証明郵便は、相手方が不在にしていて郵便局での保管期間が経過してしまうと返送されるため、意図的か否かはさておき受領されない場合も多いです。
そのため、内容証明郵便と特定記録郵便(ポストに投函されるもの)で同一内容の手紙を送付し、内容証明郵便が受け取られなくても、特定記録郵便を発送した記録を証拠として利用する方法があります。
明渡し訴訟を訴訟提起
訴訟の内容
期限までに賃料の支払いや明渡しに応じない場合、管轄の裁判所に訴訟提起します。訴訟では、明渡しのほか、滞納賃料や解除後の賃料相当損害金を請求します。
例えば、物件が相模原市にある場合、「横浜地方裁判所 相模原支部」が管轄となります。
訴訟の留意点
アパート等ですと物件の特定は容易かもしれませんが、一軒家の明渡しですと、建物だけでなく土地の一部も賃貸している場合があり、この場合、土地を特定して、明渡しを求める面積を算出するなどの必要があります。
訴訟終結
和解で任意の明渡しが合意できない場合、明渡しの判決を取得します。
強制執行の申立て
判決が確定しても、任意の明渡しが得られない場合、裁判所に強制執行の申立てをします。強制執行とは、賃借人を強制的に退去させる手続きです。
(民事執行法)第168条第1項 不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。
明渡し催告
裁判所の執行官が物件に赴き、居住者に対して引渡し期限などを説明し、明渡しの断行期日を記載した催告書・公示書を物件内に貼り付けます。この手続きは、やむを得ない事由がある場合を除き、強制執行の申立てがあつた日から2週間以内の日に実施するものとされています(民事執行規則第154条の3)。
物件の中に入りますので、居住者の協力が得られない場合に備えて開錠業者の方にも同行してもらう必要があり、不在の場合も室内に立ち入ることになります。
明渡し断行
期限までに引渡しがなされない場合、執行官が物件に赴き、執行補助者が物件から荷物を運び出し、残された家財道具を保管場所まで運び出します。家財道具は一定期間保管し、取りに来ない場合には、廃棄等します。
占有移転禁止の仮処分の必要性
状況によっては、上記のとおり訴訟提起する前に、「占有移転禁止の仮処分」を行う必要があります。これは、第三者に占有を移転させてしまう可能性がある場合などに行うものです。
というのも、明渡し訴訟によって判決を取得しても、その後、強制執行しようとしたときに別の者が占有してしまうと、上記の判決によって強制執行することができなくなってしまうからです。上記の判決の効果は、新たな占有者には及びません。
この点、占有移転禁止の仮処分を行っておくことで、仮に判決取得後に別の者に占有が移転されてしまっても、当初の判決に基づいて強制執行することが可能になります。
訴訟の際の必要書類
一般的には、訴訟提起の際に下記の資料が必要となります。
- 印紙(訴額に応じた収入印紙が必要となります。訴額は、不動産の固定資産評価証明書の評価額によって算出します)
- 予納郵券
- 訴状(正本、副本)
- 不動産の登記事項証明書(法務局で取得できます)
- 不動産の固定資産評価証明書(不動産が所在する市区町村役場で取得できます)
- 証拠資料(賃貸借契約書、内容証明郵便、配達証明書など)
- 証拠説明書(正本、副本)
最後に
今回は、賃料(家賃)を滞納された場合の明渡しの請求について解説しました。
居住者に対する契約解除通知の送付方法や、訴訟提起の際の明渡し部分の特定、強制執行の申立てなど、場合によっては煩雑な手続きとなりますので、弁護士に任せるメリットも大きいでしょう。
また、通常の事件とは異なり、裁判所や弁護士に支払う費用以外に、強制執行になった場合には、執行業者の費用等も必要となります。もちろん、債務者が負担すべきものですが、実際に回収できるかという問題があります。
これらのことから、明渡しの手続きを早期に行い、本来得られる賃料が得られないという損害を最小限にする必要があります。賃料を滞納されてお悩みのオーナーの方は、まずはお気軽にご相談ください。最善の解決方法をご提案いたします。